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「お月さま、ちょっといい話」 by 植木不等式
その1――「月面を核でぶっ飛ばせ!」
 
 冷戦華やかなりし1958年、米空軍は恐るべき「宇宙戦争」計画に着手した。コード名「A119」。その眼目は、月面で核爆弾を炸裂させること。
  前年のスプートニク1号でソ連に出し抜かれた米国は、何とかコミイ(共産主義野郎)どもの鼻をあかしてやりたいと思っていた。そこで練られた奇策が、月で核爆発を起こせば、地球上の多くの人々がそれを目撃でき、ソ連人は「何が起こったビッチ、アメ公は恐ろしいダーチャ」と慌てふためくであろう、というプランである。
  まあ宇宙規模の「猫だまし」だが、結局、立案した米空軍もあまりにバカバカしくなったのか、翌59年には「A119」は沙汰止みとなっている。よかったですね。
  ちなみにこの計画の実現可能性調査を委託されたのは、当時イリノイ工科大学にいたレナード・ライフェル博士。彼はその後アポロ計画にも関与した人物だが、当時の彼の若き部下の一人が、後に名声を世界に轟かせたカール・セーガン博士。
  セーガンの担当は、月面核爆発で生じる破砕物の「雲」が、地球からちゃんと見えるかどうかを計算することだったと言われている。セーガンは後に、大規模核戦争が起きた場合、火災による煙が全地球を雲のように覆うため気温の破滅的な低下が起こり、被害は計り知れないものになる、という理論を提唱し、大量破壊兵器に反対する世界的世論を下支えすることとなった。この「核の冬」理論が、もしも「A119」計画の研究を下敷きにしたものだったとしたら、このトンデモ計画も実は歴史的な意義を持っていたのかもしれない。
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