目次
はじめに 10
第一部
第一章 村上春樹と「何かが終わってしまった症候群」 16
村上春樹の文学は「無国籍的」といえるのか?
デビュー作が果たした「離れ業」の意味について。
第二章 『風の歌を聴け』の煩悩即菩提 32
「孤独こそが癒しである」というメッセージ。
それはかつてない心地良さの革命だった。
第三章 「唯名論者」村上春樹の果敢な戦いとは 50
大乗仏教の唯名論の世界観。
一度「空」の鏡をのぞいた者は二度とその幻影から逃れられないのか?
第四章 村上春樹にみる「庶民的な」無常感覚 76
村上春樹を揺り動かす「実体のない夢」の誘惑。
『1973年のピンボール』がくりだした「遊戯というコミットメント」とは。
第二部
第五章 村上春樹、悪魔祓いのコミットメントを始める 98
『羊をめぐる冒険』を舞台に遊戯は悪魔祓いに進化する。
「シュールにグローバルな、グローバルにシュールな」
世界的作家の誕生の舞台裏について。
第六章 村上春樹をとらえる「古い夢」の世界 123
村上春樹の作品に透けてみえる『般若心経』という古い夢。
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に登場する
「安らぎの世界」の正体。
第七章 村上春樹を閉じこめる「空」の輪の秘密 149
村上のエッセイ「回転木馬のデッド・ヒート」が語る
「降りることも乗りかえることもできない」空の世界。
その無限の拘束性はどこからくるのか。
インド人が発見した「空の輪」の秘密とは。
第三部
第八章 『ねじまき鳥クロニクル』と『豊饒の海』の間 184
『ねじまき鳥クロニクル』に登場する古井戸の正体は唯識仏教のアラヤ識だった。
二つの作品をつなぐ唯識の世界観。
インド仏教史がおしえる唯識学派出現の歴史的な背景。
第九章 『海辺のカフカ』──鏡の世界のゴーストたち 210
『海辺のカフカ』の物語にひろがる華厳経的な鏡の世界。
万物照応の「ゼロの汎神論」。
唯名論の光のなかで夢と現実は見事にリンクする。
第十章 「均衡そのものが善」と『1Q84』の教祖は語る 225
1Q84は空に月が二つある世界。
密教系カルトの教祖が語る奇妙すぎる世界観。
村上ワールドの脱「空性論」をめざす新展開。
第十一章 『1Q84』のゴージャスで支離滅裂な世界 247
「パラレル・ワールドであってパラレル・ワールドではない」?
──教祖の思わせぶり発言がひきおこした大混乱。
しかし、そこには深い仏教理論的な意味が隠されていた。
第十二章 色彩を持たない多崎つくると、甘美なる涅槃への旅路 266
内気な駅の設計士多崎つくるの恋人の名は木元沙羅。
それは涅槃の原風景を物語る名だった。
村上春樹の初期仏教への先祖返りを劇的にしめす最新長編をめぐって。
おわりに 294
主要参照文献 297
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